【成功循環モデルで変わる】離職を防ぎ、成果を出し続けるチームをつくるコミュニケーション術
「最近、社員から意見が出なくなった」
「指示したことしかやらない」
「若い社員が育つ前に辞めてしまう」
「管理職ばかりに負担が集中している」
こうした問題が起きたとき、私たちはつい、社員の能力や意欲に原因を求めてしまいます。
しかし、本当に見直すべきなのは、個人の能力だけではありません。
その人が働いている職場の「関係の質」に目を向ける必要があります。
離職は、ある日突然起きたように見えます。しかし、その前には小さなすれ違いや、言いたいことを言えない空気、「どうせ言っても変わらない」という諦めが積み重なっています。
人が会社を離れる前に、心が職場から離れていることがあるのです。
そこで役立つのが、組織づくりの考え方として知られる「成功循環モデル」です。
成果は「関係の質」から始まる
成功循環モデルでは、組織の成果は次の四つの要素が循環することで生まれると考えます。
- 関係の質
- 思考の質
- 行動の質
- 結果の質
良い循環は、「関係の質」から始まります。
職場に信頼関係があり、自分の意見を安心して言える。困ったときに相談できる。失敗を隠さず報告できる。
そのような関係ができると、社員は「もっと良い方法はないだろうか」「自分にできることは何だろう」と考えるようになります。
これが「思考の質」の向上です。
思考の質が高まれば、指示を待つだけではなく、自分から改善提案をしたり、周囲に声をかけたりする行動が増えます。
行動の質が高まれば、生産性、品質、納期、顧客満足度などの結果も変わってきます。
そして、良い結果をチームで共有することで、さらに信頼関係が深まり、関係の質が高まっていきます。
これが、成果を出し続けるチームの「グッドサイクル」です。このモデルを製造現場の数字で追った記事が心理的安全性は工場の「見えない設備」です。
結果ばかりを追いかけると、組織は悪循環に入る
一方、業績が悪化したり、納期遅れが発生したりすると、経営者や管理職は焦ります。
「なぜできていないんだ」
「もっと責任感を持ってくれ」
「言われる前に動いてほしい」
結果を改善しようとして、指示や管理を強めたくなります。
しかし、結果だけを強く求めると、社員は責められていると感じます。すると、失敗を報告しなくなり、余計なことを言わなくなります。
関係の質が下がり、思考が止まり、行動が受け身になります。
その結果、問題の発見が遅れ、ミスや手戻りが増え、さらに結果が悪くなります。
この状態が、成功循環モデルにおける「バッドサイクル」です。
結果が悪いから管理を強め、管理を強めるほど社員が動かなくなり、さらに結果が悪くなる。
経営者や管理職が一生懸命であるほど、この悪循環に気づきにくい場合があります。
製造現場で起きる「言えない空気」
例えば、朝の段取りが急に変更されたとします。
現場では、材料や治具、人員の準備をやり直さなければなりません。作業者は「この変更では納期に間に合わないかもしれない」と感じています。
しかし、上司から以前、
「できない理由ばかり言うな」
と言われた経験があれば、作業者は何も言わなくなります。
そして、問題が大きくなってから報告します。
上司は、
「なぜ、もっと早く言わなかったんだ」
と叱ります。
作業者は心の中で、
「言っても聞いてもらえないからだ」
と感じています。
この問題は、報告の仕方だけの問題ではありません。
「早く相談しても大丈夫だ」と思える関係がつくられていなかったことが、本質的な原因です。
現場から報告が上がってこないとき、「報告しない社員が悪い」と決めつける前に、報告しにくい空気をつくっていなかったかを振り返る必要があります。
関係の質を高めることは「仲良しになること」ではない
ここで誤解してはいけないことがあります。
関係の質を高めるとは、厳しいことを言わず、仲良く仕事をすることではありません。
本当に関係の質が高い職場とは、必要なことを率直に伝えられる職場です。
問題があれば問題だと言える。
分からなければ分からないと言える。
納期が厳しければ、早い段階で相談できる。
上司の考えに疑問があれば、別の意見を伝えられる。
そして、意見が違っても、人格まで否定されない。
つまり、関係の質とは「言いにくいことを、安全に言える関係」なのです。その関係のつくり方は、関係性の質を高めるリーダーの役割で具体化しています。
離職を防ぐ五つのコミュニケーション術
1.解釈する前に、事実を確認する
部下が報告に来なかったとき、
「責任感がない」
「やる気がない」
と判断するのは、事実ではなく、上司の解釈です。
まず確認すべきなのは、
「何が起きていたのか」
「どの時点で問題に気づいたのか」
「相談できなかった理由は何だったのか」
という事実です。
人を評価する前に、起きていることを丁寧に確認する。
それだけで、対話の質は大きく変わります。
2.指示だけでなく、背景と目的を伝える
社員が指示待ちになる原因の一つは、仕事の目的が共有されていないことです。
「これを今日中にやってください」
だけでは、社員は言われた作業を終わらせることに集中します。
しかし、
「明日の朝一番にお客様が必要としている。ここが遅れると、次の工程も止まってしまう。品質を守りながら、今日どこまでできるか一緒に考えたい」
と伝えれば、社員は仕事全体を考えられるようになります。
指示は人を動かします。
目的は人の思考を動かします。
3.結果だけでなく、工夫と貢献を具体的に認める
「頑張っているね」
という言葉も大切ですが、より効果的なのは、何を認めているのかを具体的に伝えることです。
「朝の段取り変更があったのに、材料担当へ早めに連絡してくれたので、工程が止まらずに済みました」
「実習生が困っているとき、自然に声をかけてくれていましたね。あの関わりが安心感につながっています」
このような承認は、その人自身も気づいていなかった貢献を言葉にします。
人は、自分の仕事が誰かの役に立っていると実感したとき、仕事への意味を感じやすくなります。承認と指摘の配合比についてはフィードバックの配合比を参照してください。
4.「なぜできない」ではなく「どうすればできる」を尋ねる
問いかけの言葉が変わると、社員の思考も変わります。
「なぜできなかったのですか」
と聞かれると、人は自分を守るために言い訳を考えます。
一方、
「どこで作業が止まりましたか」
「同じことを繰り返さないために、仕組みとして何を変えられますか」
「次回、あなたならどこから手をつけますか」
と尋ねると、問題解決に意識が向かいます。
過去の責任を追及するだけではなく、未来の改善につながる問いを使うことが大切です。この問いの置換で改善提案が3件から17件に増えた例を、部下が変わらないと悩む工場長へで紹介しています。
5.短くても、定期的に対話する
退職の意思を伝えられてから話を聞いても、すでに気持ちが固まっていることがあります。
大切なのは、問題が大きくなる前の日常的な対話です。
一回五分でも構いません。
「最近、仕事で困っていることはありますか」
「今の仕事で、やりにくい部分はどこですか」
「チームとして変えたほうがよいことはありますか」
こうした対話を定期的に行うことで、小さな違和感を早い段階で発見できます。
面談は、社員を評価するためだけの時間ではありません。
上司が現場を理解し、組織の仕組みを改善するための時間でもあります。毎日1分でできる形にしたのが朝礼のチェックインです。
離職防止は、社員を引き留めることではない
離職防止というと、待遇を改善したり、辞めようとしている社員を説得したりすることだと思われがちです。
もちろん、給与、休日、労働時間、評価制度などの労働条件は重要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
人は、自分が大切にされていると感じられる場所、成長を実感できる場所、自分の仕事に意味を感じられる場所に残りたいと思います。
離職を防ぐとは、社員を無理に会社へ引き留めることではありません。
「ここで働き続けたい」と本人が選べる職場をつくることです。
そのためには、社員個人の努力だけに頼るのではなく、組織の関係性、仕事の進め方、情報共有、評価、管理職の関わり方を見直す必要があります。
管理職は、すべての答えを持たなくてよい
管理職になると、
「自分が正しい判断をしなければならない」
「部下に弱いところを見せてはいけない」
と思いがちです。
しかし、管理職の役割は、すべての答えを出すことではありません。
現場の知恵を引き出し、異なる意見をつなぎ、チームでより良い答えをつくることです。
「私はこう考えているけれど、現場から見るとどうですか」
「私が見落としていることはありませんか」
「この問題を一緒に考えてもらえませんか」
管理職がこのような言葉を使えると、社員は自分の経験や知識を出しやすくなります。
相談することは、管理職としての弱さではありません。
人の力を借り、組織の力に変えていくことこそ、リーダーシップです。
成功循環は、明日の一言から始まる
組織を変えるために、最初から大きな制度改革を行う必要はありません。
まずは、日々のコミュニケーションを少し変えることから始められます。
「なぜできないんだ」を、「どこで困っているのですか」へ。
「もっと主体的に動いてください」を、「あなたなら、どう改善しますか」へ。
「ミスをしないでください」を、「早めに相談できるチームにするには、何が必要ですか」へ。
関係の質が変われば、社員が考えるようになります。
考え方が変われば、行動が変わります。
行動が変われば、結果が変わります。
そして、良い結果を共に喜ぶことで、チームの信頼はさらに深まっていきます。
成果を出し続ける組織は、優秀な人だけを集めた組織ではありません。
一人ひとりが安心して意見を伝え、互いの違いを生かしながら、より良い仕事を考え続けられる組織です。
離職を防ぎ、成果を出し続けるチームづくり。
その出発点は、制度や仕組みよりも先にある、目の前の一人との対話なのです。
